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マグロは止まったら本当に死ぬのか。あの話、どこまで本当?

「マグロって、泳ぐのをやめたら死ぬんだって」

こういう話、一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。 居酒屋とか、飲み会の席で出てくる定番の雑学。

でも「本当に?」ってなりますよね。 ずっと泳ぎ続けるって、そんな生き物が実在するの? 眠るときはどうするの? と。

結論から言ってしまうと、あの話は基本的に本当です。 ただ、「止まった瞬間に死ぬ」というほど極端な話でもない。正確なところを順番に説明していきます。


監修者プロフィール

五十嵐健吾

フレンチ・イタリアンの分野で10年以上のキャリアを積んだのち、和食の世界へ転向。西洋料理で培った技術と美意識を土台に、鮨職人の道へ進む。麻布十番の名店「みつい」の三井氏に師事し、素材の扱い・仕込み・握りの一つひとつを磨く。現在は、かきだ鮨グループにてメニュー開発と顧客満足の責任者を務める。


結論から言うと、本当です──ただし「すぐ死ぬ」わけじゃない

マグロは泳ぎ続けないと、最終的に死にます。 これは嘘でも誇張でもなく、マグロの体の構造上、そういうふうにできている。

ただ「止まった瞬間に即死」というイメージは少し違って、泳がなくなると徐々に酸欠になっていく、というのが正確な表現に近い。

じゃあなぜそうなるのか。ここが面白いところです。


なぜ泳ぎ続けないといけないのか

エラが「口を開けて泳ぐ」前提で設計されている

口を開けて泳ぐ

魚が呼吸する仕組みは、基本的に「口から水を取り込んで、エラで酸素を吸収し、エラ蓋から出す」というもの。

多くの魚はこのとき、口とエラ蓋を自分でパクパク動かして水を循環させることができます。止まっていても呼吸できる。

でもマグロはこれがほとんどできない

マグロのエラ蓋は退化していて、自力でポンプのように動かす機能が弱い。その代わり、口を開けたまま泳ぐことで、水流を使って強制的に水をエラに通すという仕組みで呼吸しています。

これを「ラム換気(ram ventilation)」と呼びます。 泳ぐこと自体が呼吸になっている、という状態です。

止まると水が流れなくなる。水が流れないと酸素が取り込めない。だから死に向かっていく。

沈まないために泳ぐ、という側面もある

もうひとつ理由があって、マグロは浮き袋を持っていないか、持っていても非常に小さい。

多くの魚は浮き袋を使って水中での浮力を調整していますが、マグロにはそれがないので、泳ぐことで揚力を生み出して浮いている状態。

飛行機が速度を落とすと落下するのと似たような話で、マグロも泳ぐのをやめると沈んでいきます。

呼吸のためにも、浮くためにも、泳ぎ続けるしかない。そういう体です。


じゃあ水族館のマグロはどうしているのか

ここで当然の疑問が出ます。 「水族館にマグロいるじゃん。あれはどういうこと?」

円形水槽と「止まれない動線」の話

マグロの水槽

水族館でマグロを展示するとき、水槽は必ず円形か楕円形になっています。 角がない。直線がない。

これはマグロが泳ぎ続けられるよう設計されているからで、角があるとマグロが曲がりきれずに壁にぶつかって弱ってしまう。

大きな水槽をぐるぐると泳ぎ続けられる環境を作ることで、展示が可能になっています。眠るときも泳いたまま、半分意識を落とした状態で泳ぎ続けているとされています。

それでも飼育がむずかしい理由

マグロの展示

マグロの飼育・展示が世界的に難しいとされているのは、こういう体の仕組みがあるからです。

ちょっとしたストレスで泳ぐのが乱れ、壁に激突する。水流や水温の管理が少しでもズレると一気に弱る。日本でクロマグロを長期展示できている水族館は、世界でも数えるほどしかありません。

マグロを元気に泳がせ続けること自体が、水族館にとってのひとつの技術なんです。


養殖マグロはなぜ育てられるのか

マグロの養殖

「でも養殖マグロってあるよね?」という話も出てきます。

養殖の場合は、広い生け簀(いけす)の中を泳ぎ続けられる環境を作っています。水族館の水槽と同じ発想で、止まらなくていい空間を確保している。

近畿大学が長年かけてクロマグロの完全養殖に成功したのは有名な話ですが、あれも「泳ぎ続けられる環境をどう維持するか」との戦いでもありました。

生け簀の中でも勢いよくぶつかって死ぬことがあるくらい、繊細な生き物です。


マグロが「止まれない体」になった理由

マグロの体

なぜマグロはこんな体になったのか。

これは進化の結果です。

マグロは外洋、つまり沖の深い海を高速で長距離移動しながら生きている魚。クロマグロの最高時速は70〜80kmに達するとも言われています。

その高速移動に特化するために、余計なものが削ぎ落とされていった。浮き袋も、エラ蓋のポンプ機能も、止まるための仕組みも。

代わりに得たのは、流線型の完璧な体と、泳ぎ続けるための筋肉と心臓。

「止まれない」のは弱点ではなく、外洋を支配するための特化の結果、とも言えます。


よくある疑問

Q. マグロは眠らないの? 眠ります。ただし人間のように「横になって止まる」ではなく、泳ぎながら脳を半分ずつ休ませる「半球睡眠」に近い状態で休むと考えられています。

Q. 止まったら何分くらいで死ぬ? はっきりした数字は出ていませんが、即死ではありません。酸素が徐々に不足していき、弱っていくイメージです。水温や個体の状態にもよります。

Q. マグロ以外にも同じ魚はいる? カツオやサメの一部(ホオジロザメなど)も同じように泳ぎ続けないと呼吸できないタイプがいます。マグロだけの話ではなく、外洋を高速で泳ぐ魚に共通する特性です。