「カマトロ」「中落ち」「血合い」——寿司屋でたまに目にするけれど、何がどう違うのかわからないという方は多いのではないでしょうか。この記事では、一本マグロに存在する希少部位の特徴と、大間・塩釜・戸井という三大産地ごとの味の違いを、鮨職人・五十嵐健吾が解説します。
監修者プロフィール
五十嵐健吾
フレンチ・イタリアンの分野で10年以上のキャリアを積んだのち、和食の世界へ転向。西洋料理で培った技術と美意識を土台に、鮨職人の道へ進む。麻布十番の名店「みつい」の三井氏に師事し、素材の扱い・仕込み・握りの一つひとつを磨く。現在は、かきだ鮨グループにてメニュー開発と顧客満足の責任者を務める。

マグロの希少部位:カマトロ・中落ち・血合い・血合いぎし
カマトロ――一頭から2本しか取れない究極の希少部位
カマトロは、エラの後ろ・胸ビレの付け根あたりにある部位です。一頭のマグロから左右1本ずつ、合計2本しか取れません。
脂の乗りは大トロと同等か、それ以上。非常に濃厚な脂が特徴で、市場にはほとんど出回らないため、高級店でなければなかなかお目にかかれない部位です。

生食での提供もありますが、脂が非常に豊富なため、焼き物や煮付けに使われることが多いです。


血合い――栄養価は最高クラス、でも寿司には使われない理由
血合いは、背骨の周辺にある暗赤色の筋肉部分です。鉄分・タウリン・DHAが非常に豊富で、マグロの部位の中で栄養価は最高クラスと言われます。
ただし独特の臭みがあるため、寿司店ではほぼ使われません。主にシーチキン(ツナ缶)などの加工品の原料となる部位です。健康志向の方からは注目されていますが、そのまま食べるにはひと手間が必要です。

血合いぎし――知る人ぞ知る、通好みの希少部位
血合いに隣接する部位を「血合いぎし」と言います。特に血合いに隣接する中トロを指すことが多く、一匹からわずかしか取れない希少部位です。
この部位の魅力は、中トロらしい脂の甘みと赤身らしい濃い旨み・香りが重なり合うこと。知る人ぞ知るマグロの醍醐味が詰まった、通好みの逸品です。

中落ち――ねぎとろの原料として有名な、骨際の旨み
中落ちは、背骨に沿って残った身のことです。スプーンや貝殻でこそいで取り出すため手間はかかりますが、骨際ならではの濃厚な旨みがあります。脂乗りは赤身と中トロの中間くらいで、ねぎとろの原料として有名ですが、軍艦巻き・手巻き・丼でも大人気です。

豆知識:「ネギトロ」のネギは野菜のネギではない
「ネギトロ」の「ネギ」は、野菜のネギではなく、**骨の周辺から身を「ねぎ取る(削ぎ取る)」**ことが語源です。
なお、回転寿司のねぎとろは、本マグロではなくメバチマグロやキハダマグロを使い、植物油脂などでトロの脂を再現した加工品であることが多いです。本マグロの中落ちとは別物と考えておくとよいでしょう。
希少部位まとめ
| 部位 | 取れる場所 | 特徴 | 主な食べ方 |
| カマトロ | エラ後ろ・胸ビレ付け根(左右各1本) | 大トロ以上の脂、超希少 | 焼き・煮付け・生食 |
| 血合い | 背骨周辺(暗赤色) | 栄養価最高、臭みあり | 加工品(ツナ缶)原料 |
| 血合いぎし | 血合いに隣接する中トロ部分 | 脂の甘みと赤身の旨みが共存 | 握り・刺身 |
| 中落ち | 背骨に残った身 | 骨際の濃い旨み | ねぎとろ・軍艦・丼 |
産地が違うとマグロの味はどう変わるのか?
「大間のマグロは有名だけど、他の産地とそんなに違うの?」という疑問を持つ方は多いです。答えはシンプルで、大きく変わります。産地ごとに漁場環境・エサ・海流が異なり、それが脂の質・身質・旨みの凝縮度に直接影響します。
大間産(青森県大間町・津軽海峡)
「マグロの王様」と呼ばれる産地です。津軽海峡の激しい潮流の中で、豊富なイカを食べて育つため、脂の質が別格です。きめ細かいサシが入り、毎年1月の初競りでは信じられない価格がつくことで有名です。知名度・ブランド力ともに三産地の中でトップです。
塩釜産(宮城県塩釜市・三陸沖)
プロの料理人が「玄人好み」と口をそろえる産地です。赤身の色鮮やかさは三産地の中でもトップクラスで、身質がしっかり締まって旨みが凝縮されています。一般的な知名度は大間ほど高くないものの、業界内での評価は非常に高い産地です。
戸井産(北海道・函館市戸井地区・津軽海峡)
実は大間と同じ津軽海峡で漁獲される戸井産。品質は大間に引けを取らないにもかかわらず、知名度の差から価格が抑えられることも多く、料理人の間では「大間の陰に隠れた実力者」として密かに人気があります。コスパを重視するプロがこっそり仕入れる産地、として知られています。
産地別比較まとめ
| 産地 | 漁場 | 特徴 | 業界内評価 |
| 大間(青森) | 津軽海峡 | 脂の質が別格、ブランド力No.1 | ★★★ |
| 塩釜(宮城) | 三陸沖 | 赤身の色鮮やか、身質が締まる | ★★★(玄人好み) |
| 戸井(北海道) | 津軽海峡 | 大間と同品質、コスパ◎ | ★★★(隠れた実力者) |
まとめ
- カマトロは一頭から2本だけの超希少部位。大トロ以上の脂の濃さが特徴。
- 血合いは栄養価最高だが臭みあり、寿司よりも加工品向き。
- 血合いぎしは脂と赤身の旨みが共存する通好みの希少部位。
- 中落ちは骨際の濃い旨みが特徴。「ネギトロ」のネギは野菜のネギではなく「ねぎ取る」が語源。
- 産地は大間・塩釜・戸井が三大ブランド。それぞれ脂の質・身質・色鮮やかさに違いがある。
大トロ・中トロ・赤身の基本的な部位の違いや解体方法については前の記事で詳しく解説しています。
本マグロ・メバチ・キハダの種類の違いやプロの目利き方法については次の記事で解説しています。
